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そばと高血庄

 人間の体内には、つねに血圧を正常に保てるように絶えず調整している因子(「体液性因子」という)があります。ところが、何らかの理由でこの因子の働きが異常になり、そのために血圧が上がってしまうことが確認されていますが、ソバには、この異常を抑制する働きを持つ成分が含まれています。

 体液性因子のひとつに、アンジオテンシンT変換酵素(「ACE」とも呼ばれる)という酵素があります。また、体内の器官や血液中には、アンジオテンシンTという物質が存在していますが、そのままでは不活性型なので、血圧を上げることはありません。

 ところが、ACEはこのアンジオテンシンTに働きかけて、極めて強い血圧上昇作用(血管収縮作用)を持つアンジオテンシンUを作り出します。
 その一方で、体内では強い血圧降下作用を持つブラジキニンという物質が作られていますが、ACEは、このブラジキニンを分解する作用も持っています。
 つまり体内では、血圧を上げる作用(アンジオテンシンU)と下げる作用(ブラジキニン)とが共存しており、体が正常に働いている時は、血圧は正常に保たれるわけです。
 しかし、何らかの原因でACEの作用が異常に強くなると、このバランスが崩れて、血圧上昇作用が突出してしまいます。そのために血圧が上昇してしまうのですが、この作用をほどよく抑えれば、血圧は下がることになります。ソバに含まれているのは、このACEの働きを阻害する機能を持つ物質です。

 現在、さまざまな血圧降下剤が実用化されています。その中には、アメリカで開発された、ACEの作用を弱めるものもありますが、ソバに含まれる阻害物質の化学構造は、その降下剤とほぼ同じです。
 ただし、降下剤のような薬剤の場合、使用を中止すると、かえって血圧が上昇してしまうなどの副作用を伴うことがあります。しかし、食品中に含まれる物質にこのような作用があるとすれば、副作用の心配はいりません。もちろん、薬剤と比べた時の効果は弱いですが、一定量を食べ続けることで、はるかに穏やかで安定した効果が期待できるというメリットがあります。そば粉が高血圧によいという民間伝承は正しかったのです。

 ちなみに、百数十品目の食品を使った実験では、このACEの作用を抑制する物質は、小豆やソラマメなどの豆類、キウイ、イチゴなど果物、アスパラガス、カラシナといった野菜類、そして一部の魚介類にも含まれていますが、ソバの効果が際立って高いという結果が得られました。

 また、ソバに含まれるルチンには、毛細血管の強化作用ばかりでなく、血圧の降下作用もあることが確認されていますが、ルチンの作用はACEとは無関係とされています。つまり、ソバには、血圧を下げるための二重の効果があるわけです。
 ルチンは、たんぱく質やミネラル、ビタミンと同様に、ソバの実の外層部分に多く含まれていますが、ACE阻害物質は反対に、内層部分に多く含まれています。
 白っぽいそば粉は血圧を下げる成分を多く含み、黒っぽいそば粉は主として、血管を強化する成分を多く含むということになります。

 従来、白いそばはでんぷんが主体で味も薄く、ルチン含量も少ないと栄養的に低く見られがちなきらいもありましたが、このように素晴らしい成分を含んでいたのです。


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